臨床心理士によるDVと片親疎外の解説

2019年10月11日に行われた、<参議院会館 院内集会>子供の連れ去り問題に関する国連人権理事会・国連児童の権利委員会活動報告会(主催:子どもオンブズマン日本)で、臨床心理士である石垣秀之先生(株式会社iプロデュース)から片親疎外に関して非常に分かりやすい講演がありました。石垣先生は国連人権理事会に意見書を提出しており、面会交流を求めるための意見書も書いています。石垣先生のお話を伺いました。


1.DV問題

 私はこれまでの心理臨床経験を通じて、多くのDV被害者の方と関わってきました。彼ら・彼女らの心身の苦痛と影響を考えると、DV被害者は守られるべきであるということに強く同意いたします。

 ただし、そもそもDVとは何ぞや、ということを考えたときに、DV防止法によって保護命令が出されるような脅迫や暴力というものを受けたという人は多くありません。平成30年の離婚件数が年間20万7千件であるのに対し、被害者と子ども両方に対する保護命令が出されたのが687件で0.3%、被害者のみに対しては430件であり0.2%、親族と子どもの両方に対しては0.1%となっており、保護命令が認められた1,700件は、総離婚件数の0.8%に留まります。

 一方、妻側からなされた離婚訴訟においてDVを理由とするのは平成30年の司法統計では20%程度であり、本当に緊急避難が必要とされる危険なDVと、主観的に主張されるDVには大きな開きがあることが分かります。

 臨床の現場の感覚でも、明らかに一方的な危険なDVというのは極めてまれであり、双方が互いに傷つけ合っており、主観的な苦痛をDVと判断するのであれば、双方がDVの被害者であり、同時に加害者であるということが多く、程度の差はあれいわゆる夫婦喧嘩と判断すべきものがほとんどです。つまり、DVからの保護が「例外的に」必要となるものの、「原則的な」共同親権制が推進されることに大きな問題はないと考えるべきだといえます。

 真のDVか否かは、実際の行為やエピソードと両者の関係性によって判断されます。たとえ一回でも重大な暴力があったか、そして通常の夫婦関係からは逸脱した支配関係にあるかどうかです。

 夫婦の別居前において、たった一回の暴言でも受けた側の心理的苦痛からDVと認められることもあるかもしれません。しかし、そうであるならば、緊急避難が必要ではない状況における連れ去りとその後の引き離しも同様のDVであると認めるべきです。子どもを誘拐された親がどの程度の心理的苦痛を感じるかを想像すれば、たった一度の連れ去りであってもどれだけ大きな影響を受けるかが理解できます。

 時には7対3のパワーバランスをDVと認めることもあるでしょう。

 しかしその一方で、面会交流の条件として「離婚に応じなければ」あるいは「金を支払わなければ」子どもに会わせないといった状況は、7対3程度ではなく、ほとんど10対0の支配性を持っているといっても過言ではありません。

 平成28年に私が実施したアンケートでも、虚偽DVを訴えられ、子どもを連れ去られ、引き離された親の多くが、うつ症状やPTSD症状といったDV被害者と同様あるいはそれ以上の心理・精神的影響を受けていることが分かりました。DVから被害者を守ることが必要であるならば、当然に、連れ去りや引き離しのDV被害から守られなければなりません。


2.別居親が感じる理不尽さ

 DV被害者の苦痛が外部の人には理解されにくいように、子の連れ去りや引き離しによるDV被害もまた外部の人には理解されにくいという特徴があります。彼ら・彼女らの訴える理不尽さには、このようなものがあります。

 主観的に心理的苦痛を訴えれば連れ去りは違法とはされない一方で、

連れ去りや引き離しを子どもへの心理的虐待であるという主観的理由による連れ戻しは違法とされ、逮捕されることもあります。

端的に言えば連れ去った側のDV主張は主観でOKなのに対し、連れ去られた側がDVの不存在を主張する際には「やっていません」と主張するだけではダメであり、客観的な証拠の提出、いわゆる悪魔の証明が求められる構造になっています。

 離婚に際し、婚姻後の財産は夫婦で築いたものだとして案分させられます。このこと自体には特に問題はないとしても、片方が就労し家計を賄い、他方が家事と育児を担当する場合、

片方の稼いだ経済的利益については半分にする一方で、他方が家事や育児を行うと、主たる養育者として認められ、養育権分割請求は認められません。

 裁判所では、離婚後も養育費を支払うことで子どもの養育に携わっているといわれますが、そうであるならば、離婚前においても当然に子どもの養育に携わっていたと認められなければならないはずです。

 共同親権になることで子どもの大学進学や定期預金の解約等に、いちいち拒否権を発動できてしまうなどという人もいます。しかし、現状では、自らは就労可能であるにも関わらずに就労せず、子どもの養育費を自らの生活費に流用し、高額な塾に入ることを別居親に何らの断りもせずに決定し、その後に養育費の増額を一方的に求めるといったことが行われるケースもあり、裁判所によっても認められてしまいます。そして同居親の再婚では、何ら別居親に相談もなく養子縁組が決められてしまいます。

 「子どもを連れ去られるくらいなのだから、何か悪いことをしたのでしょう」といったことを声高に主張する人もいますし、そういった先入観で審判に臨む裁判官も少なくありません。では、夜道でレイプ被害に遭った女性に対して、「夜道でレイプされるくらいなのだから、あなたにも何か落ち度があったのでしょう」と言えるでしょうか。子どもを連れ去られた当事者は、こうした心無い偏見によって苦しめられ、自ら命を絶つ方もいます。

 こうした司法や社会の偏見の目は、連れ去られた当事者が女性であればなお強く影響します。「子どもを連れ去られるなんて、ひどい母親だったに違いない」、こうした思いこみがどれだけの女性当事者の心を傷つけてきたでしょうか。

 確かに子どもを連れ去られる状況があったのであれば、夫婦関係が良好であったとは考えにくいといえます。しかし、その当時にした何らかの行為は、連れ去りや引き離し、そして司法や社会によるセカンドレイプによって仕打ちを受けるほどの悪行だったのでしょうか。

 祖父母やその他の親族についても同様の扱いがなされます。同居親に連れ去りを教唆する祖父母がいる一方で、たった一人の孫の顔を見ることもできずに亡くなっていく祖父母もいます。


3.子どもの苦しみ 片親疎外の発生機序

 次に、子どもの苦しみと片親疎外の発生機序についてお伝え致します。まず、両親の葛藤や対立を目にしたり、親が感情的になったり不安定になったりする様子に接することは、子どもにとって、とても動揺することであり心理的な苦痛を感じるものです。

 別居や離婚といった両親の別れによって、直接的な対人間の葛藤場面に晒されることは回避することができますが、それによって子どもは一方の愛着対象と別れることを強いられることになります。これまでは、愛着対象との分離というマイナス要因は、面前DV状況からの解放というマイナス要因の削減によって相殺される、あるいはそれ以上の利益があると考えられてきました。

 しかし、子どもが面前DVの影響を受けるのは、直接的な両親の葛藤場面に晒された時だけではありません。

子どもは愛する親が傷つく様子を見て心を痛めるのと同様に、愛する親の攻撃性を見て心を痛め、それが自分への攻撃に向かないか不安になります。

そして親が悲しんでいたり不安にしていると、児童が持つ自己中心性から自分が悪いことをしたのではないかと感じてしまいます。

 子どもが連れ去りに遭い、引き離しが継続すると、やがて子どもは別居親に会いたくないと言うようになります。別居親は同居時の様子から考えて、子どもは同居親に洗脳されたのだ、片親疎外になったのだと主張しますが、同居親は別居親の悪口など子どもには聞かせていないから言いがかりであり、子どもの真の意思だと主張します。

 では、同居親が別居親の悪口を言わなければ影響を受けないのでしょうか。次の動画の中の1:00から2:48で行われているStill Face Experimentをご覧ください。


<日本語訳>

養育者が無表情・無反応になった時の赤ちゃんの行動観察です。始めは養育者が適切に応答します。

赤ちゃんが指を指すと、養育者がその視線を追います。感情や注意を調整することが重要です。


次に、養育者は赤ちゃんに対して無反応になります。赤ちゃんは、途端に異変に気付きます。それから持てる能力の全てを使って養育者の反応を得ようとします。

笑いかけてみたり、指さしてみたり、赤ちゃんは手を振り上げ、「何が起こったの?」と言わんばかりです。

甲高い声を出して、「どうしてこんなことをするの?」と訴えます。

2分もすると、赤ちゃんは通常の状態ではなくなります。否定的な感情になり、後ろを見たりします。

元に戻すと、赤ちゃんも元通りになりました。

 ご覧いただいたように、赤ちゃんは母親が「反応しない」ということに影響を受けています。では、仮に小さな子どもが父親に関する話をしたり、父親を連想させる行為をした際に母親が同様の反応を示したらどうなるでしょうか。条件付けが成立し、子どもは父親について語ることを避けるようになり、父親のことを考えること自体に苦痛を感じるようになっていくでしょう。面会交流の話がでる度に母親が同様の反応をする場合、子どもは面会交流を避けるようになっていきます。

 つまり、子どもを片親疎外にするためには積極的に悪口など言う必要もなく、同居親による別居親への悪口がなかったという程度では片親疎外への進行を防ぐことはできないのです。

 同居親の消極的な態度は、子どもが保持する別居親のイメージと記憶を改ざんし、そのことで直接的には別居親との愛着を失い、あるいは思慕の念を抑圧し、間接的に子どもの心に深いダメージを与えます。同居親の下で安心して暮らすためには、自分のアイデンティティの一部である別居親への思いを断ち切る必要があり、その罪悪感に苛まれないように、子どもは別居親への思いを無意識下に抑圧し、ときに反動として、異常なまでの別居親への攻撃や嫌悪が生じます。

 その結果、子どもは短期的には同居親と強い依存関係を結びますが、長期的にはその依存関係に縛られて自立できなかったり、無意識に眠る罪悪感が自分への信頼や自尊心の成長を阻害し、世の中の人間関係や将来的な異性間の愛情への不信を根づかせます。

 「本当によい親なら、いずれ必ず子どもから会いに行くはず」などと主張する人がいますが、一旦、片親疎外になったら、同居親による監護が継続する限り子どもが自らの意思で別居親に会いに行くようにはなりません。


4.まとめと共同親権

 離婚後の単独親権制は、子どもの連れ去りやその後の奪い合いを生じさせ、子どもの利益を損なう両親の葛藤を継続させる要因となります。

 両親が離婚しても子どもにとって親は二人であり、両親共に子育てに関与することが原則として認められるべきであり、一部のDV案件の存在によって全体の原則が曲げられることがあってはなりません。連れ去りや引き離しは別居親に対するDVであり、子どもに対する虐待であるとの法改正が伴うことで、真のDVや虐待への対応がなされ、現在の子どもたちが次の世代のDV加害者になることを防ぐ一次予防としての効果が期待できます。

 選択的に、親としての権利義務が放棄されたり、させたりすることは、すなわち子どもにとって一方の親あるいは両方の親による捨て子制度を容認するに等しく、子の福祉に反します。

 親責任を全うする共同養育社会を実現するためには、原則的共同親権制への移行が必要不可欠であり、早期の法改正を望みます。

子どもの権利条約9条を守る会

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